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第2回 西尾香苗専任講師

第2回 西尾香苗専任講師

メビオ卒業生

メビオ講師コラム

2018/11/20(火)

これまで38年間のメビオを支えてくださった方々、現在のメビオを支えている講師、医療の現場で活躍している卒業生など、関わりのある方々との対談などを通じてメビオの姿を紹介していきます。

第2回はメビオ専任講師 西尾香苗と萩原茂の対談です。

西尾講師は、京大大学院在学中からメビオで生物講師を務めてきました。小論文(生物・医学系英文)の授業を担当することもあります。近年は生物系の翻訳者として出版翻訳にも関わっています。

授業では、自身の大学・大学院在学中の学習・研究体験だけではなく、図鑑などの翻訳作業を通して身につけた新しい知識をもトピックに加え、生物の驚異、生物学の楽しさを伝えてくれています。

1989年アレフ会(現メビオ)生物講師
京都大学 理学部卒業
京都大学大学院理学研究科修士課程修了・同博士課程中退

主な翻訳書
『地球博物学大図鑑』スミソニアン協会(共訳、東京書籍)”The Natural History Book”
『動物生態大図鑑』デヴィッド・バーニー(東京書籍)”How Animals Work”
『新種の冒険 びっくり生きもの100種の図鑑』クエンティン・ウィーラー&サラ・ペナク、米国・国際生物種探査研究所(朝日新聞出版)”What on Earth? –100 of Our Planet’s Most Amazing New Species”
『マインド・ウォーズ 操作される脳』ジョナサン・D・モレノ(アスキー・メディアワークス)”Mind Wars –Brain Research and National Defense”

中山広樹(なかやま ひろき)
1983年〜1989年アレフ会(現メビオ)で生物講師を務める。
1984年京都大学理学部卒業
1990年大阪大学大学院医学研究科博士課程終了、医学博士
1990年日本学術振興会特別研究員・東京大学応用微生物研究所
1991年京都大学医学部助教授(分子病診療学講座)
故中山広樹博士は京都大学理学部在学中から医学博士となるまでの6年間、メビオで生物の講師として活躍されました。その後京都大学医学部、カナダのトロントの研究所などでのマウスを材料とした発生生物学の研究の途上、40歳で急逝されました。西尾さんは中山さんとは学生時代の同期生で、メビオの専任講師として、また生物関係の翻訳者として活躍しています。対談は萩原、西尾の共通の友人であったエネルギーあふれる中山さんを偲びながら始まりました。

中山君が執筆したバイオ実験の解説書の『バイオ実験イラストレイテッド』(秀潤社)の説明の明快さにはメビオでの指導とテキスト作成の経験が反映していると思いますよ。

萩原
西尾さんは京都大学の理学部では中山さんと同期生ですね。

西尾
ええ、当時は3回生から専門の課程が始まりました。中山君はミクロ系でDNA関係の研究室、私はマクロ系で動物学の研究室と専門分野は分かれていましたが、仲よかったですよ。和歌山の白浜などでの生物実習では中山君は生物系のリーダーとして活躍していて人望がありましたね。学部を卒業したとき中山君の計画で8人ほどで九州一周の卒業旅行に行ったりもしました。

萩原
「理科」が好きでしょうがない科学少年がそのまま大人になったような方でしたね。自分で作成したキメラマウスを生徒に見せて説明している時など目が輝いていましたね。当時の中山さんの話で忘れられないのは、ケージ交換の話ですね。毎週2回、メビオの授業の後、夜研究室に帰って、400匹のマウスのケージの掃除をしなくてはいけない。大変な仕事ですよね。その日はさすがの中山君も憂鬱そうでしたね。京都大学での「生物学のフロンティア」の講義で、山中伸弥さんも、若い頃マウスの世話ばかりしなくてはならない頃は、周りからは「山ナカ」ではなくて「山チュウ」と呼ばれていたという話をされてましたね。

西尾
私は一時期物理学教室で実験していた頃、毎日ガラス器具の洗浄をしていました。実験器具用の洗浄剤を使った後、蒸留水で洗って加熱乾燥する装置に入れるという作業の繰り返しです。高価なプラスチックの実験器具を加熱して溶かしてしまったこともありました。

萩原
中山さんがメビオにいたころ、ガラス管の実験器具の洗浄に一番良いのは入れ歯の洗浄剤だという裏技を話してましたよ。タンパク質の汚れなどがを完全に分解できるそうです。コストの問題かもしれませんがね。

西尾
実験には色々な苦労があるんです。学部生時代に発生の実習でイモリの原口背唇の移植実験をしたのですが…

萩原
例のマンゴルトの実験ですね。

西尾
シャーレに寒天をかためて直径2ミリのイモリの胚をはめ込み、胚から原口背唇を切り出して別の胚に移植します。割り箸の先に埋め込んだタングステンの針金を電気分解して細い針を作り、それで原口背唇を切り取ります。人間の髪の毛を割り箸に挟み込んだヘアーループでもう一つの胚に移植するんです。日本人の黒髪は太いので赤ちゃんの髪の毛で作ります。次の日に研究室に行くと胚は全部死んでいるんです。何人かで一週間、かなりの数トライしたんですが、次の日に生きていたのは1回だけでした。それもすぐに死んでしまいました。

萩原
滅菌処理の問題ですか。

西尾
それが一番考えられることですね。マンゴルトの実験でも1000個単位で成功は5個ぐらいのものですから難しい実験なんです。教科書に出てくる実験の結果だけではなく、実験の苦労を話すと生徒は乗ってきますね。授業では研究の裏話などを交えて印象づけることを心がけています。

萩原
中山さんは京都大学理学部の時から、6年間、メビオで生物の講師として活躍されました。面倒見の良さ、教えることの情熱に加えて、文章の厳密さが際立っていましたね。東京大学の研究所に移られた後、生物の代表的な記述問題のテーマを選んでもらうことと、その解答文の作成を依頼したんです。そのとき書いていただいた文章は、その後のメビオの生物のテキストの骨格になりました。

西尾
後に中山君が執筆したバイオ実験の解説書の『バイオ実験イラストレイテッド』(秀潤社)の説明の明快さにはメビオでの指導とテキスト作成の経験が反映していると思いますよ。中山君が亡くなられてもう15年になりますが、今も版を重ねていて、入門者にとってのバイブル的な本ですね。今急速に進歩している生物学の最先端の話、中山君に聞いてみたかったですね。

萩原
すごく厳密に、それでいて分かりやすく説明してくれるだろうね。

翻訳したことがダイレクトに受験生物に関係していなくても、生物学の進歩をベースにして受験生物を教えることができるようになりましたね。

西尾
私はメビオで生物を教えるようになってもう25年ほどになります。専任講師として授業に集中すると同時に、時間的余裕にも恵まれて出版翻訳をするという夢も実現することができました。

萩原
大のネコ好きの西尾さんは、メビオに入ってきた頃は動物のイラストレーターをされてましたよね。

西尾
一時期イラストレーターになりたいと思っていたんですが、最近はイラストは全然やってないです。

萩原
メビオ以外の時間は、もっぱら翻訳ということですね。

西尾
翻訳は2003年からです。この10年は1年に1冊程度の割合で翻訳をしています。高校の時は生物よりもむしろ英語の方が得意だったこともあり、出版翻訳に関わりたいと思っていました。イラストを描くよりは翻訳している方が向いている。もしかしたら翻訳するよりは校正する方が向いているかもしれません。ひとのあら探しが得意ということかな…

萩原
翻訳者としての仕事と、メビオの仕事は関係していると思うんですが。

西尾
翻訳したことがダイレクトに受験生物に関係していなくても、生物学の進歩をベースにして受験生物を教えることができるようになりましたね。『地球博物学大図鑑』(東京書籍)という大きな本を翻訳したんですが、分類の体系が従来のものからえらく変わっている。

萩原
分子系統樹ですね。

西尾
今、分類・系統学の研究者は、遺伝子を扱わないと話にならない。系統樹的にはDNAの分析結果を入れないと系統樹にならない。形態学などによる従来のデータだけでは、正確な系統解析は行えないということが常識になっています。

萩原
それに対応して、新課程になって分類・系統の内容は大きく変わりましたね。

西尾
かなりの論文を読んで勉強しながら翻訳を進めるんです。翻訳することで、今の最先端がどうなっているかということが見えてきました。教科書の課程が変化する前に勉強ができて良かったですね。分類や系統樹に関しては、私にまかせろと思っていますよ(笑)。これからもこの分野は教科書の上でもまだ変化していく範囲だと思います。

萩原
分類だけでなく進化も古いものだという見方をされてきましたね。それがDNAに土台を置いて、大きく変化している楽しい分野になってきましたね。

西尾
今度翻訳し始めたのは、イヌやネコ、ウマなどの家畜化についての本なんです。実はこれが進化をテーマとしているんです。この著者の意図は家畜ができてくる過程の人為選択の話をベースにして進化の話をしようということなんです。イヌは品種がすごく多様化している。多様化とゲノムがどう関係するかについては詳細に研究されていて、最近の分子系統学・分子進化学の一分野になっているんです。

萩原
ネコでなくてイヌですか。

西尾
私はネコのほうが好きでイヌにはそれほど親近感は感じてなかったんですけど、イヌの章を翻訳するためにイヌと人間に関するさまざまな文献を集めていたら、イヌがあまりに健気すぎて泣けてきました。

萩原
新課程になって、系統・分類とともに進化の範囲も重視されてきましたね。

西尾
今まで進化の範囲は冷遇されていましたね。旧課程の生物Ⅰでは進化は範囲外でした。新課程になって、2015年のセンター試験では進化の出題がかなりのウエイトを占めました。進化が生物学のいろいろな分野のベースにあるというメッセージだと思うんです。高校の新課程の教科書は先カンブリア時代、古生代と歴史の話から始まるものが多いのですが、そうすると生徒は単なる暗記の分野だと捉えて、覚えることだけの面白くない範囲だという意識をもってしまいます。第一学習社の教科書は進化の仕組みから始まっていて、私はこの方向が好きです。仕組みが分かれば、微生物の遺伝子の進化も絡んでくるから、医学部で学ぶ薬剤耐性菌の発生するメカニズムなどに繋がってくる。興味の持ち方も変わってくると思います。

対策授業で扱った英語論文がそのまま出題されたのは愛媛大学の後期入試ですね。

萩原
入試対策授業で西尾さんが用意した論文が直後の入試で出題されたことがありましたね。

西尾
対策授業で扱った英語論文がそのまま出題されたのは愛媛大学の後期入試ですね。ハーバード大学の学長が「女は馬鹿だから科学には向かない」と発言して総スカンを食ったことがあるんです。それに関して『ネイチャーダイジェスト』がカバーストーリーとして掲載した記事の原文が出題されました。

萩原
『ネイチャーダイジェスト』はずっと購読されていたんですか。

西尾
もともと『ネイチャー』をずっと購読してきたんです。翻訳するときに原書に参考文献としてあげられてる論文を確認しなければならないんですが、『ネイチャー』を購読しているとネットで過去の論文を読めるんです。それで購読を続けていると『ネイチャーダイジェスト』が出版されるようになって、日本語版で読みやすいので、生徒に少しでも目を通して欲しいと思ってメビオにも置いてもらうことにしたんです。日本語版の『ネイチャーダイジェスト』は出題する側にとっても便利な材料なんですよね。

いろいろ試行錯誤して、結局落ち着いたのは、添削するときに、直しは赤で、直した理由の説明は紫でと色を変えるという方式でした。

萩原
西尾さんは論述解答の文章に対する添削が実に丁寧ですね。添削された答案のコピーをいつも拝見させていただいてますが、あの添削のやり方はどうやって確立されたものなんですか。

西尾
まず添削以前の話ですが、サイエンスの論文の段構えはintroduction, materials and methods, results, discussion(考察)という構成になります。何かの実験について説明せよ、という問題に対して、生徒はこの構成が分かっていないので、どこまで書いていいかが分からないのです。
先ほどのマンゴルトの実験の場合、「この実験の結果を述べよ」という設問ならば、当然resultsを答えることになるので「二次胚が形成された」ということで、知識の問題ということになります。「この実験から何が考えられるか」という設問ならばdiscussionの内容、すなわち「誘導が起こったと考えられる」ということになりmaterials and methods, resultsから推論する問題になります。まずそこから説明しなければいけないのです。

萩原
口頭で説明しているなら相手の表情を見ながら言葉を選べるけど、添削は本人が目の前にいないだけに、より労力が必要ですよね。

西尾
機会があれば口頭でも説明するんですけど、文字で説明すると、これはこうだからこうですよということをちゃんと書かなければいけないので、添削する側の日本語能力が問われますね。その点では翻訳で正確な日本語の文章を書くこととリンクしているので自分としても一石二鳥だと思っています。メビオの添削で自分の文章能力は確実に高まっていると思います。

萩原
2色を使い分けていますね。

西尾
文章を直すことと、それとどうしてそう直したのかを説明をすることを分けなければいけないと思うのです。翻訳の勉強の一環として、自分の訳文を添削していただくことが何回かあったのですが、そのときは、ただ直してあるだけで、私が間違っていて直されたのか、それとも「こっちのほうがいいよ」という意味で直されたのか、あるいはその添削した方の好みで直されたのかが分からないことが多かったんです。生徒にとってはどうしてここが直されたのかが分かった方がいいと思って、いろいろ試行錯誤して、結局落ち着いたのは、添削するときに、直しは赤で、直した理由の説明は紫でと色を変えるという方式でした。

萩原
色で区別するというのはいいアイデアですね。

西尾
赤と紫の色分けも色覚異常や色弱の人でもこの2色なら区別しやすいのではと考えているんです。赤で、用語の間違いなどの他、てにをはの「は」を「が」に直したりもし、紫で直しを入れた理由を説明し、「点は引かれないけど、こう直した方が日本語としてはいいよ」というようなコメントを加えます。日本語もいい日本語をめざしたいんです。翻訳するよりは校正する方が向いているのかもしれません。他の予備校でどれだけのことをやっているかは分からないけど、添削指導という点ではかなりレベルが高いと自負しています。

萩原
各教科にそういう優秀な先生がいてくれるのがメビオの良さだと思っているんです。

西尾
メビオは、受験指導のプロである上にキャリアや人間性の幅広い方々が多く、懐が深い点がいいですね。

ネコの病気も、時には自分の病気も、すきあらば授業のネタにしたいと思っています。

萩原
話の終わりに動物好きの西尾さんが特に好きなネコの話を伺いましょう。昨年は2ヶ月あまりネコちゃんの看病で大変でしたね。

西尾
自分で点滴したりで大変でした。ネコの看病で知った話ですけど、腎臓からもホルモンのエリスロポエチンが分泌されているんです。家のネコは腎不全だったんですが、腎不全になるとエリスロポエチンが分泌できなくなり、血液中のヘモグロビンが不足して貧血になる。腎不全に対してヒトのエリスロポエチンを注射するという治療があります。ネコのエリスロポエチンは薬としては無くて、ネコにヒトのエリスロポエチンを注射するんです。長い期間注射していると抗体ができて、その作用がなくなるという話もあります。ネコの病気も、時には自分の病気も、すきあらば授業のネタにしたいと思っています。

萩原
ホルモンや免疫の授業でそういう具体的な話をすると、生徒は話の筋道が分かって、おもしろいと思ってくれるでしょうね。極力そういう話を挟んで授業を進めて行きたいですね。生物にはその手の話がいくらでもありますからね。今日はありがとうございました。