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読書と受験生 国語科主任講師 和田より

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読書と受験生<2> 国語科主任講師 和田より

うんちく・小ネタ

メビオ講師コラム

2016/11/13(日)

国語科主任講師の和田です。

前回に続き、短編小説をご紹介します。今年度のメビオ生にすすめて、特に評判の良かった2作です。

レイモンド・カーヴァー「大聖堂」「ささやかだけれど、役に立つこと」
村上春樹訳『大聖堂』所収

この二作は、生涯、短篇小説しか書かなかったレイモンド・カーヴァー文学の頂点を極める二作として名高い傑作です。

二作に共通するのは、「理解しあえない者たちの間に、奇跡的に通った、豊かなコミュニケーション」です。

「大聖堂」では、盲目の友人で、妻の仕事仲間だったひとが家に泊りにくることになり、その夫が疎ましい気持ちながらも応対するという話です。妻が途中で眠ってしまい、取り残された二人がなんとなく眺めていたテレビ番組で大聖堂が映し出されたとき、奇跡が起こります。
ぼくたちは、物を見ているようでいて、実はなんにも見えていないんだということを思い知らされました。同時に、盲目の世界の豊穣なことに驚きました。

「ささやかだけれど、役に立つこと」は、冒頭でいきなり一人息子が誕生日の日に交通事故に遭ってしまいます。夫婦二人で集中治療室に詰め、息子の意識の回復を待ち続けるのですが、誕生日にはケーキを予約していたんです。ケーキを準備したパン屋は、憔悴しきった夫婦に執拗に電話をかけてきます。
コミュニケーション不全による悲劇が究極まで行き当たったときに、両者を救ったものは意外なものでした。ぼくはこの短篇をもう、6回は読み返しています。


海外の小説ばかりを紹介しましたが、反応があればまた日本の小説についても書きたいとおもいます。ブログの読者で、時間のある方は『平家物語』を新潮古典集成の版で読んでみてください。時間がなければ、「義仲の最期」や「敦盛」のところだけでも。むちゃくちゃ面白いですよ。『源氏物語』なら、角川文庫から出ている、与謝野晶子訳が読みやすいです。他には、中島敦「名人伝」「山月記」、上田秋成『雨月物語』(江戸時代に書かれた幻想物語)、谷﨑潤一郎『細雪』(大阪と芦屋を舞台にした四人姉妹の物語)も生徒に好評でした。

最後に、受験生が本を読むこと、について少し書きます。

受験生には本など読んでいる時間はない、ましてや小説などもってのほか、という考えも十分成り立つでしょう。実際そう考えている受験生や保護者、指導者もたくさんいます。いや、むしろその考えのほうが一般的だろうと思います。

それに、本を読むことはいいことだ、ということについて、異論を唱えるひとはほとんどいないと思います。でも、受験生という時間の限られた生活の中で戦っているひとたちが本を読むとなると、それはそのまま勉強時間の削減を意味することになります。

ぼく自身、国語科主任として、また、単なる読書好きとして、受験生と読書の関係について、ずっと考えてきましたが、もう自分の中で結論は出ています。

それは、受験生もぜひとも本を読むべきだということです。

現代人は、大人も子どもも、コミュニケーション過剰な生活のなかに生きています。メビオ生に限らず、仕事や勉強以外の時間は、スマホを通して常に誰かとつながろうとしています。

街に出て外食していると、カップルや友人など二人連れのひとたちを見ていると、ひとりがトイレに立った途端、もうひとりは必ずと言っていいほど、すぐにスマホの確認を始めます。
通勤電車は孤独な時間ですが、多くのひとがスマホをいじっていますね。

受験生にしても状況は同じで、机に向かう時間は孤独にがんばる時間、そして、それに疲れるとスマホを取り出してLINEやTwitterで誰かとつながろうとする。一人でごはんを食べたとしても、写真を撮り、Instagramにアップしてコメントを待つ。

みんな独りになることが出来ないんです。

毎年受験生をみていると成績が良いのにもかかわらず本番には弱い生徒が必ずいます。あるいは、めでたく医学部に合格したのにもかかわらず、自分で勉強し続けることが出来ず、留年してしまう生徒、脱落して退学する生徒の話も年々増えてきています。

これは医学部の単位認定の厳しさだけが理由ではないでしょう。医者になるということは、一生自分で勉強していくということを選択することですし、これは、孤独な営為の中に身を投じることでもあります。

独りの時間を本とともに過ごすのは、本来つらいことではなく、むしろ、一人旅のように自由で気ままで静かで、後々になっても思い出せるような豊かな時間を送ることです。

物語世界の大海を鯨のように遊泳する。思索の森に冒険者のごとく分け入って、自分だけの大切な何かに辿り着く。
それが読書です。

もし、面白い本に出会い、いい時間を過ごすことが出来たら、ぜひその本のことを大事な人に薦めてみてください。